名古屋地方裁判所 昭和54年(ワ)81号 判決
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【判旨】
一本件各給付に至る経緯
1 <省略>
2 <証拠>を併せて考えると、次の事実が認められる。
(一) 原告は、昭和五一年一二月二七日、愛知県西加茂郡三好町内において、通勤途上同乗していた車が後続車に追突され、外傷性頸部症候群の傷害を負い、治療を受けていた。
(二) 原告は、右事故当時、矢作建設工業株式会社の下請人である佐多貞男に雇用されている大工であつた。右事故による手足のしびれ等により従前の仕事を行えなくなつたとして、加害者から事故後昭和五二年二月分まで一日当たり金一万五〇〇〇円で算出した休業補償を得ていたが、それ以降の分については加害者の締結していた自動車損害賠償責任保険の保険会社(訴外保険会社)から一日当たり金一万円で算出した金員の支払を受けるにとどまつていたため、不満を持つていた。
(三) 原告は、通院先の病院において知り合つた内野茂治の紹介で、昭和五二年七月二日、愛知県交通労働災害対策協議会と称する組合に加入し、同会事務局長の肩書を有する被告と知り合つた。
<反証排斥略>、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
二第一次給付について
1 <省略>
2 <証拠>を併せて考えると、次の事実が認められる。
原告は、昭和五二年七月二日、愛交災において、被告らに対し、前記のとおり従前受け取つていた休業補償の額が訴外保険会社によつて減額されたことを不満として訴えた。被告は、原告からの事情聴取の結果、労側者災害補償保険法による通勤災害に関する休業給付(労災給付)の額の方が右休業補償の額よりも高く、その支給を申請すれば右休業補償との差額を受けられることになるであろうとの見込みを立て、原告に対し、原告の遭遇した交通事故が通勤災害であることを理由に右労災給付が受けられることを指摘し、その実現のために必要な措置を執ることについて原告の了承を得た。そこで、被告は、同年八月一三日、矢作建設工業株式会社の労働保険事務担当者牧野某に会い、佐多貞男より前に原告を雇用していた大村時雄作成に係る原告に対する給料支払明細書を渡した。その上で、同月二六日、原告も立ち会わせて右牧野及び佐多と右労災給付支給申請手続について交渉した。その結果、当初渋つていた牧野も了承し、同社として右申請手続を執つたので、原告は、同年九月二〇日、金六四万二五〇六円の休業給付を受けるに至つた。
被告本人の供述中には、原告が、自分から、前記労災給付の支給を受けられるよう被告に求めたとの部分があるが、一で述べた原告が愛交災に加入するに至つた経緯及び前顕証拠に照らし、たやすく信用することができない。また、<証拠>によれば、原告が来名する以前鉄工業を営み、民商に加入し、国民金融公庫からの借入れを行つたこと及び原告が昭和五七年に宮崎むちうち障害対策協議会と称する組織の事務局長に就任したことが認められるものの、これらの事実は前記認定を左右するには程遠いといわざるを得ない。他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
三第二次給付について
1 <省略>
2 <証拠>を併せて考えれば、次の事実が認められる。
原告が労災給付を受けるに至つたことは二で述べたとおりであるが、その額は、同法により、給付基礎日額に休業日数を乗じ、これに更に一定の減額割合を乗じて算出されていた。そこで被告は、原告が受けていた自動車損害賠償責任保険による休業補償の算定の基礎となつている一日当たりの賃金の額を右給付基礎日額と同額まで改めさせれば、これに休業日数を乗じて算出される金額が右労災給付の額を上回ることになるので、両者の差額が訴外保険会社によつて支払われることになるともくろみ、原告に、訴外保険会社から更に金員が取れる見込みがあることを述べ、その同道を求めて昭和五二年九月二〇日ころ、この差額及び慰謝料の支払を訴外保険会社の担当者と交渉した。その結果、原告は、右保険会社から同月三〇日、金一一七万二二五二円の支払を受けるに至つた。
四第三次及び第四次給付について
1 <省略>
2 <証拠>を併せて考えると、次の事実が認められる。
原告は、愛交災において、被告に対し、佐多貞男から残業賃金の未払分の支払を受けたいと訴えた。そこで、被告は、佐多に右残業賃金未払分を支払わせることにより原告の受けている労災給付の給付基礎日額が計数上増額となるので労災給付も増額させようともくろみ、東労働基準監督署を佐多との交渉の場として設定し、昭和五三年三月八日、佐多貞男を右監督署に呼び出して、中島次長立会の上で右残業賃金未払分の支払について交渉した。この交渉には、原告、その妻等約一〇名の愛交災の関係者が同席した。その結果、原告は佐多からその場で残業賃金として金五万六二五〇円の支払を受けた。被告は、これに伴い給付基礎日額が計数上増額となることに基づき、原告の労災給付を増額することについて中島次長の了承を得た。原被告ら愛交災の関係者は近くの喫茶店で昼食をとつて別れた。その後原告の労災給付は増額扱いとされ、原告は同年四月二八日、差額分として金七八万六二四五円の支給を受けた。
五第五次給付について
1 <省略>
2 <証拠>を併せて考えると、次の事実が認められる。
被告は、四で述べたとおり、給付基礎日額の計数上の増額に基づいて原告の労災給付が増額されたことを根拠に、第二次給付と同様に訴外保険会社に自賠責による休業補償を増額させて差額分を支払わせようともくろみ、原告に、訴外保険会社から更に金員が取れる見込みがあると述べ、その同道を求めて昭和五三年五月、右差額分の支払について訴外保険会社の担当者と交渉した。その結果、原告は、右保険会社から、同月一九日金七四万一四九四円の支払を受けるに至つた。
六第六次給付について
<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
被告は、昭和五三年八月、原告に対し、「盆だから慰謝料を取つてやろう。」と持ち掛け、原告立会いの上で訴外保険会社の担当者と原告の慰謝料の支払について交渉した。その結果、原告は、右保険会社から、同月一六日、金二五万円の支払を受けるに至つた。
七右各給付に対する報酬の支払について
<証拠>によれば、被告が原告に対し本件各給付について交渉等の尽力に対する個人的な報酬の支払を求めたので、原告が、被告に対し、別表AないしC記載のとおり右報酬の支払を承諾し、その場でこれを支払つたことが認められる。<省略>
八本件各報酬支払の合意の効力について
被告は、二ないし六で述べたとおり、原告の当初の不満を受け、労災給付及び自賠責保険給付の実務についての自分の知識・経験を踏まえてこれを保険給付の実現に至らせるための具体的な方策を立て、さらにはいつたん実現された保険給付を根拠として新たな給付を引き出す構想を練り、原告にその請求をするよう持ち掛け、その上で自分の高度の交渉能力を駆使して本件各給付を実現させたものであるから、労災給付及び自賠責保険給付等の請求の法律事件に関して原告のために代理又は媒介事務を取り扱つたものと認められる。しかして、既に述べたとおり、本件各給付の都度、これに近接した時点で原告と報酬支払の合意をし、その支払を受けているので、報酬を得る目的で反復継続の意思をもつて右法律事件に関して右法律事務を取り扱つたことは明らかであり、右各報酬支払の合意は、弁護士法七二条に違反する事項を目的とする契約として民法九〇条に照らし無効であるといわざるを得ない。もつとも、被告の右法律事務の取扱いは形式上は愛交災の事務としてこれを行つたものであることが認められるけれども、弁護士法七二条の法意に照らすと、右各報酬支払の合意の効力を判断するに当たつては、本件で被告の法律事務取扱いの資格がいかなるものであるかを問うまでもなく、現に法律事件に関し法律事務を取り扱つた被告が報酬を得る目的でこれを行つたか否かを判断すれば足りるものと解すべきである。
そうすると、原告は、被告に対し、支払済みの本件各報酬に相当する金員につき不当利得返還請求権を有するというべきである。 (髙世三郎)